化学物質

化学品法改正案を公開:Part 1―規制対象化学品の概念を大きく改正

12/12/2024

ベトナム商工省は2024年3月13日、化学品法改正案(以下、本ドラフト)を公開した。同法の改正は、2023年1月より商工省の化学品総局の下で開始され、当局内での様々な検討や議論を経て、ようやく草案が公表され、現在パブリックコメントの募集が行われている。本ドラフトは全11章95条で構成されており、現行の化学品法(06/2007/QH12)を全面的に改正するものである。主な改正点は、「特別管理化学品」規制の導入(制限化学品に替わる)、申告化学品等の規制対象物質の見直し、新規化学品管理規制の策定、製品含有化学物質の明確化、様々な工業化学品の概念の導入、グリーン・クレジット制度の導入、化学事故予防・対応計画に関する規制の改正などである。

以下では、各種の規制対象化学品に関する規制の改正について解説する。

本ドラフトでは規制対象化学品の概念が一部変更されており、従来の化学品法との比較は下表の通りである。なお、本ドラフトには具体的な化学物質リストは規定されておらず、また、現在の対象物質リストは主に政令113/2017/ND-CPに規定されている。

規制対象化学品の種類

本ドラフトでの改正内容

条件付き化学品

変更なし

制限化学品

「特別管理化学品」に代替される。

禁止化学品

変更なし

化学事故予防対応計画を作成する必要な対象となる化学品

変更なし

申告化学品

「リストに該当しない危険化学品」に代替される。

 

「特別管理化学品」規制の導入

本ドラフトでは、「特別管理化学品」という概念が新たに導入されており、現行の化学品法の「工業分野における製造・取引制限化学品」(制限化学品)に替わるものとなっている。「特別管理化学品」は制限化学品と同様に、主にロッテルダム条約、水俣条約、ストックホルム条約など、ベトナムが批准する国際条約で規制される物質に該当する化学物質である。

「特別管理化学品」に関する規制は、従来の制限化学品に対する規制と大きな差異はないが、以下の改正点に留意する必要がある。

l  特別管理化学品を製造・取引するためには、制限化学品と同様に、商工省から製造・取引許可書(ライセンス)を取得しなければならない。ただし、有効期限は、製造許可書が5年間、取引許可書が3年間とすることが提案されている。

※一方、条件付き化学品の製造・取引ライセンスについては、5年間の有効期限が提案されている。(現在は無期限)

l  特別管理化学品の輸入においては、化学物質の種類におうじて次の2つの手続きのいずれかが必要となる:(1)輸入許可書の取得、または(2)ナショナル・ウィンドウ・システム(https://vnsw.gov.vn/)上での申告(どちらが必要となるかの具体的な判定方法は今後具体化される予定)

l  事業者は、輸入許可書を取得せずに、自社で使用するための特別管理化学品を輸入することが可能である。ただし、特別管理化学品を使用する前に、国家化学品データベース(https://chemicaldata.gov.vn/)にて申告することが新たに義務付けられる。

l  特別管理化学品の売買においては、売手側と買手側の両者の間で「売買管理票」を作成し、互いに承認しなければならない。この管理表は従来の「毒性化学品売買管理票」に替わるものである。適用対象は広範囲の毒性化学品ではなく、特別管理化学品に絞り込まれる点が大きな改正と見られ、事業者への負担も軽減されることが期待される。

l  特別管理化学品の使用に際しては、その化学品の種類および使用目的に関する情報を国家化学品データベース上で情報公開しなければならない。

 

申告化学品等の規制対象物質の見直し

現行規制では、申告化学品の具体的なリスト(政令113/2017/ND-CPの附属書V、政令82/2022/ND-CPにより一部改正)が定められている。該当する化学品(混合物を含む)の輸入には、通関前にナショナル・シングル・ウィンドウ(https://vnsw.gov.vn/)を通して申告しなければならない。当局によると、輸入申告が必要な化学品はこのリストに該当する物質およびその混合物のみであるため、ベトナムに初めて輸入される新規の危険化学品を管理することが困難である。

そこで、本ドラフトでは「申告化学品」を廃止し、「リストに該当しない危険化学品」という概念が新たに導入されている。つまり、「条件付き化学品」、「特別管理化学品」、「禁止化学品」、「化学事故予防対応計画の作成が必要となる化学品」については具合的な物質リストが設けられるが、それ以外の物質(混合物も含む)で上記の「リストに該当しない危険化学品」に該当する場合は輸入時に申告しなければならない。

新規化学物質管理規制の策定

新規化学物質については、基本的に現行の化学品法の内容が継承される。新規化学物質とは、国家化学品インベントリまたはベトナムが認定した外国化学品リストに収載されていない物質と定義される。新規化学物質の登録は、以下の書類と情報に基づき、国家化学品データベース(https://chemicaldata.gov.vn/)上で行われる。

l  新規化学物質登録申請書

l  IUPACによる物質名

l  化学品評価機関による物理的・化学的性質および危険有害性に関する情報

 

また、新規化学物質の登録に関する手順や手続きについては、政府が別途定めると明記されているため、今後、化学品法の改正後には新規化学物質管理規制が本格的に整備されると見込まれる。

製品含有化学物質の明確化

製品含有化学物質に関して、従来の化学品法では言及されていないが、本ドラフトでは明確に規定されている。基本的には、(1)対象製品に適用される国家技術基準(QCVN)が策定されている場合と、(2)QCVNが策定されていない場合の2つに分類される。いずれの場合も、企業は対象製品を販売する前に、製品に含まれる有害化学物質に関する情報を国家化学品データベース上で情報公開しなければならない。

さらに、QCVNが策定されていない製品含有化学物質については、企業はその製品の製造工程において有害化学物質を管理するための措置(手順など)を講じなければならない。また、科学技術省は今後、有害化学物質の含有量を測定するための検査機関について詳細に規定する予定である。

本ドラフトの原文は以下のURLよりダウンロード可能である。
https://moit.gov.vn/tin-tuc/thong-bao/du-thao-to-trinh-chinh-phu-va-du-thao-luat-hoa-chat-sua-doi-.html

(出展:ベトナム商工省のサイト)

 

2. ベトナム、化学品法改正案を公開:Part 2――グリーン・クレジット制度の導入

 第1節に引き続き、以下では、化学品産業および化学活動に関連するプロジェクトを促進するために化学品法改正案で提案されている新たな規制や改正点について解説する。


様々な工業化学品の概念の導入

現行の化学品法では、主に特定の規制対象化学品を中心に管理が実施されている。同法の改正案では、産業別の化学品にも焦点を当てているため、以下のような新たな化学品の概念が導入される。

産業別の化学品

詳細

基礎化学品

他の製品(化学品を含む)の製造に使用される原材料、燃料、添加物、溶剤など

石油化学製品

 

石油精製、石油または天然ガスにより製造される化学製品、またはこれらの原料から化学反応により製造される化学製品(ただし、燃料またはエネルギー用のものを除く。)

医薬化学品

 

医薬品を製造するための原材料(化学的または天然由来の化合物も含む)

工業用ゴム

 

金型やその他の機能性を有するゴムから製造される製品(タイヤなどを除く)

エネルギー化学品

エネルギー源またはエネルギー貯蔵として機能する化学品

 

国内化学品産業を促進するために、本ドラフトの第10条では「重点化学品産業分野」という概念を導入し、該当分野に優遇制度が適用される。具体的には、重点化学品産業分野は以下の通りである。

l  基礎化学品の製造

l  石油化学製品、医薬化学品、技術的ゴムの製造

l  再生可能なエネルギー源から二酸化炭素ガスを排出しないエネルギー化学品の製造

l  化学品産業の集約型工業団地および工業地帯

l  投資法に基づく優待制度の対象となる化学プロジェクト

 

グリーン・クレジット制度の導入

上記の化学品プロジェクトに対する優待制度に加え、本ドラフトではグリーン・ケミストリーを推進するため、グリーン・クレジットと呼ばれる新たな制度も提案されている。このクレジットは原産地、製造工程、製品に対して適用され、商工省によって認証される。主な対象は、化学品の輸出においてグリーン・クレジットを必要とする企業と予想される。しかし、この制度は企業に対する義務事項ではなく、あくまでも任意である。

化学事故予防・対応計画に関する規制の改正

現在、化学事故予防・対応計画の作成が必要となる化学品リスト(政令113/2017/ND-CP附属書IV)に該当する化学品を製造、取引、貯蔵、使用し、ある時点の最大貯蔵量が同附属書で定める量以上である事業者は、化学事故防止・対応計画を作成し、プロジェクトの正式稼働前に商工省に提出し、審査、承認を受けなければならない。

この計画書の作成と審査はかなり複雑な手続きであり、企業の負担とコストが問題視されている。そのため、化学活動を伴う投資プロジェクトを円滑に促進するために、今回の改正案では、新規プロジェクトは工場建設完了後ではなく、フィージビリティ・スタディ(FS)段階で申請することが提案されている。このように、化学事故防止・対応計画に関する申請は簡略化されることが期待される。ただし、プロジェクトの活動中に、工場の拡張や生産量の増大などの変更があった場合、計画を更新し、当局の承認を再度受ける必要がある。

本ドラフトの原文は以下のURLよりダウンロード可能である。
https://moit.gov.vn/tin-tuc/thong-bao/du-thao-to-trinh-chinh-phu-va-du-thao-luat-hoa-chat-sua-doi-.html

(出展:ベトナム商工省のサイト)